第5章
絵里視点
ゆっくりと目を開けると、無意識に窓へと視線をやった。また雨だ。雨町の冬の雨はいつもこう。絶え間なく降り続き、ガラスを叩いている。まるで、出口の見えない灰色の私の人生みたいに。
この街に来て二ヶ月が経つ。雨町を選んだのは、雨町がんセンターの評判のためだけではない。和也に見つからないよう、西海岸から十分に離れた場所だったからだ。
毎朝七時、病室のベッドで目を覚ますと、私はまず鏡に向かう。
『私が、私じゃなくなっていく』
今日は化学療法の日だった。点滴用の椅子に座り、透明な毒の入ったバッグから、それがゆっくりと自分の血管へ落ちていくのを眺める。この薬はがん細胞を殺してく...
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チャプター
1. 第1章
2. 第2章
3. 第3章
4. 第4章

5. 第5章

6. 第6章

7. 第7章

8. 第8章

9. 第9章


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